戦姫絶唱シンフォギアXV リレー連載 第6回
小野 勝巳 監督
スタッフ&キャスト陣によるリレー連載第6回のゲストは、小野 勝巳監督です。
変身バンクや戦闘シーンなど、よりパワーアップしたアクションはいかにして生まれたのか。『シンフォギア』だからこその演出について語っていただきました。
――ついに物語も折り返し地点を過ぎましたが、現在の手応えはいかがですか。
小野 『XV』はスタッフに新しい世代が入ってきたこともあり、かなり攻めたアクションシーンが描けているなという実感がありますね。『シンフォギア』シリーズが好きでこの現場に来たという熱意ある若手スタッフがすごく増えたんです。上がってくる画からもその思いがびしびし伝わってきますし、「大丈夫か? 頑張りすぎるなよ?」とちょっと心配になるくらいです(笑)。特に放送されたばかりの第8話はすごい映像になったのではないかなと思います。
――第7、8話はまさかのキャロル復活回でした。
小野 第8話前半は超絶強かったキャロルが、後半、力を使い果たして膝をつく場面があります。あれは、復活したとはいえキャロルも完全ではなく、ダイダロスの迷宮を破壊しつつ装者達に力を託したからです。とはいえ、やっぱり再登場したからにはカッコよく描きたかったので、新技を出そうということになり、超重力子の塊を放つという必殺技を使わせることにしました。毎回、『シンフォギア』シリーズは必殺技をどう描くか悩むのですが、キャロルの技はうまくハマりましたね。
――体が小さいままダウルダブラのファウストローブをまとうのも新鮮でした。
小野 カッコよかったですね。もともと体が大きいときのファウストローブなので、最初はどうなるか未知数でしたが、意外と小さいバージョンでも似合うんだなと(笑)。
――第7話はオートスコアラーも再登場しました。彼女たちの戦いぶりに感動する適合者(ファン)も多かったようです。
小野 その前のサンジェルマンといい(第4話)、『XV』は集大成感がありますよね。ただ、オートスコアラーも描くのに気を遣うキャラクターではありました。オートスコアラーは『GX』でシンフォギア装者と渡り合い、イグナイトモジュールがあってやっと倒せた敵です。本来ノーブルレッドよりも圧倒的に強いはずなので、それが敗れてしまう理由を明確に見せなければいけない。強くカッコよく見せながらも、廃棄躯体であり欠損状態であることがちゃんとわかるように描写したいと考えていました。
――オートスコアラーのダンスをモチーフにした特徴的な戦い方が『GX』のときと変わらなくて嬉しかったです。
小野 オートスコアラーの戦い方やポーズはスタッフがしっかり『GX』の描写を押さえてくれて、ちゃんとタップを踏んだりするんですよね。大変なことだったと思うのですが、やっぱりみんな『シンフォギア』が好きなのだなと(笑)。スタッフの愛情を感じました。今回、キャロルの変身バンクを描いてくれた三宮(昌太)さんというアニメーターさんも、オートスコアラーを描きたいと言っていたんです。残念ながらオートスコアラーまでは描けなかったのですが、その代わりにキャロルの変身バンクに2コマだけオートスコアラーの画を入れましたと。面白いアイデアだと思いましたし、すさまじい愛情を感じましたね。
――『XV』全体のアクションについて監督が特別に気を遣っていることなどを教えていただけますか。
小野 ノーブルレッドの描写ですね。彼女たちは『シンフォギア』シリーズに出てきた敵の中で一番弱いんです。弱いがゆえに装者とガチンコで戦ったら絶対に勝てないですし、そうは言ってもただ弱いまま描いては画として物足りないものになってしまう。なので描き方にすごく気を遣いますね。弱さを見せながらも、人質を取ったり、罠にはめたりという搦め手を使いながら装者に肉薄していく、そのバランスを常に意識するようにしています。
――戦い方にも表れていますが、三人の絆も強固ですよね。
小野 ノーブルレッドは実験動物のように扱われてきた三人なので、虐げられてきた三人だからこその絆は大事に描きたいと考えていました。強さを補い合っているところもそうですし、家族以上に家族の結束があるところもそうですね。あとは彼女たちも生きるために必死に戦っているということは強調しておきたいと思いました。三人は怪物となり人間に迷惑を掛けまくっているけれど、彼女らは彼女らで血を補充するため、怪物から人間になるため、訃堂に協力している。けっして悪さをしたくてやっているわけではないんです。
――また、『XV』は変身バンクの演出が過去シリーズを踏襲しながらもかなり派手になりました。
小野 シリーズごとにちょっとずつ要素を足してきましたが、5回目ともなるとアイデアをひねり出すのが大変で(笑)。今回、アイデアとしては床を使ったアクションというのが新しい要素になったかなと思います。今回の変身バンクを作るに当たって、『G』の頃の資料が残っていたのでそれを見直していたら、床に使えそうな素材がたまたまあって。当時考えていたことを思い出したり、いろいろ素材を組み替えたりして、それで床を使うというアイデアが思い浮かびました。
――床の存在や背景の柱もあり、変身バンクの空間自体がグッと広がった印象を受けました。
小野 そうですね。そもそもあの変身空間は『G』のときに考えた空間で。『G』のときから背景の中央に弦をモチーフにした柱のようなものがあるのですが、真ん中にキャラクターを置いて柱を回したいとずっと提案していたんです。ただ、今までは柱が小さいから回せないと言われていたので、だったら今回はもっと大きくしてやろうと(笑)。それで今回、背景の柱を回すのに成功したという経緯があります。やっと実現できました。
――しかも今回の変身バンクはやや長めですよね。
小野 今まではそれぞれ35秒前後だったのですが、いろいろアクションを加えていったら結局、基本は45秒ぐらいでキャラクターによっては50秒ぐらいになってしまいましたね。
――ベースとなるのは響の変身バンクですか?
小野 そうですね。響は最初の変身バンクということもあって、スタッフも僕が描いた絵コンテにそって描いてくれるのですが、制作の順番があとになっていくにつれてみんなが描きたいアクションを思い思いにぶつけるようになるんです(笑)。切歌なんかは60秒を超えてきてびっくりしました。20秒以上カットすることになりましたが、でもそれぐらいスタッフの熱量がすさまじかったということですね。
――では、物語についてもうかがいたいと思います。第8話の最後でシェム・ハが未来を取り込んだかのような状態になりましたが、響との関係はどうなっていくのでしょうか。
小野 第5話で未来が響に対して抱えていた感情が明らかになりました。自分がライブに誘ったことで響がいじめられ、家庭が壊れ、危険な目に遭っている。大きな負い目を感じていたわけです。その思いにやっと気付けた響ですが、二人はバラバラになり、やっと再会できたと思ったら未来はシェム・ハに取り込まれたような状態になってしまった。なんとか未来を救い出したいという気持ちが、今後の響のモチベーションになっていくと思います。
――響はシェム・ハとなった未来に向き合うことになると思いますが、どんなところがポイントになりますか?
小野 響は神殺しの力を持っているので、その力でシェム・ハを殴ってしまえば殺せてしまいます。結果、響しか対抗できないけれど、果たして響はシェム・ハとなった未来と戦うことができるのか。そのジレンマの中で戦いが繰り広げられていきます。未来だけではなく、神殺しという自分の力にどう向き合っていくのかもポイントになるでしょうね。
――また、『XV』は翼にとってヘヴィな展開が続き、今はやっと落ち着いたかに見えますが、訃堂との関係など不穏な要素は拭いきれません。
小野 一度は落ち込みますが、今は防人たらんとして自分を保っている状態です。防人として剣に徹することで自分自身の判断を抑えているという危ういバランスではあるので、その感情の機微をなるべく丁寧に描くようにしています。訃堂との関係なども含め第9話は翼にとって大きな転機が待っているので、ぜひ注目していただきたいですね。
◆コラム◆
『シンフォギア』シリーズを漢字一文字で表すと?
拍
歌のリズム、音楽のテンポ感を大事にしながら演出しているので、「拍」です。