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戦姫絶唱シンフォギアXV リレー連載 第11回

原作・音楽プロデューサー 上松 範康

スタッフ&キャスト陣によるリレー連載第11回のゲストは、原作・音楽プロデューサーの上松 範康さんです。
『XV』を彩った音楽の中からゲストキャラクターの楽曲や複数人による楽曲を中心にセルフレビューをしていただきました。

――今回のTVシリーズで最後に制作されたのはどの楽曲ですか?

上松 第13話のCパート、お墓の前に装者たちが集まるシーンの劇伴ですね。僕自らがピアノを弾きました。

――作業が終わったときの心境を覚えていますか?

上松 納品したときに、少し肩が軽くなったような気がしました。ただ、最後の音をちゃんと終わりの音にするのか、それともあまり終わった感じを出さない半終止にするのか、作曲中は最後まで悩んでしまって。自分はどうしても先に続いていく物語が好きなので、TVシリーズは完結するとはいえどこか先に続くような終わり方にしたい気持ちがあったんです。でも、最後の「完」という文字をみたときに、やっぱりちゃんと締めくくろうと思って、悩みに悩んで終わりの音を選択しました。自分としてはちょっと意外で面白かったです。

――では、装者のソロ曲以外の楽曲についてセルフレビューをお願いできればと思います。まずは第1話で使用された6人曲『六花繚乱』についてはいかがでしょうか?

上松 『シンフォギア』シリーズは第1話の存在感というものを特に大事にしています。「歌いながら戦う」というこのシリーズが培ってきたテーマを第1話で提示しなければいけないという思いがあり、『GX』以降はコンビプレイにも力を入れてきました。今回は、歌の掛け合いを早くしすぎてアニメの制作チームに苦労を掛けたという過去の反省も踏まえ、一人一人の歌詞の長さを平等に、全員8小節にしているというこだわりがあります。監督が望まれた構成ではあるのですが、「上松さん、全員が平等だと画も平等にしないといけないから大変でしたよ」とおっしゃっていて、どちらにしても大変なんだな、と(笑)。でも、曲とバトルの見せ場が平等にあって、僕としては100点満点でした。

――そして第2話では、翼とマリアの久しぶりのデュエット曲『Angelic Remnant』がありました。

上松 これまでライブシーンのアイデアは自分から出させていただくことが多かったんです。例えば、『逆光のフリューゲル』だったら舞い散る羽根であったり、サビの前でドームが開くというギミックであったり。『不死鳥のフランメ』だったらサビに入るタイミングで火が点くところがそうです。ただ、今回は僕の発想が金子(彰史)さんの邪魔にならないことを大事にしたかったので、自分からこうしたいと提案するのではなく、金子さんが何をしたいのかをリサーチしてこの曲に取り組みました。

――金子さんからは何かリクエストがあったのでしょうか。

上松 ライブシーンのあとに虐殺が起こるので、この曲は絶対に死を予感させない希望のある曲にしてほしいとのことでした。見る人の感情をしっかり揺るがす展開になっていて、第5期になってもその鋭さが変わらないのはさすが金子さんだと思いました。

――そして、続く第4話では響とサンジェルマンによるデュエット『花咲く勇気 Ver. Amalgam』が披露されました。

上松 響とサンジェルマンがこの曲を二人で歌うというのは、「シンフォギアライブ2018」で悠木(碧)さんが提案してくれたアイデアだったんです。響に一番近い人がこんなに素晴らしいアイデアを出してくれて、本当にありがたかったですね。その気持ちを金子さんが大事にしてくれて、そこから今回のバージョンが生まれました。サンジェルマンから響へのラブレターではないですが、「お前のことはちゃんと見ているぞ」という、微笑ましくも心強いメッセージだったのかなと思います。

――もともと、二人で歌うことを想定していたわけではないんですよね? それがここまでばっちりハマるというのもすごいです。

上松 そうですね。もともと『AXZ』でサンジェルマンと共闘するという大事なシーンで流れる曲ですし、響の曲は誰かに響く曲でありコーラスを多めにしてもらっているので、金子さんはサンジェルマンと一緒に歌ってもハマるだろうとわかっていたんだと思います。金子さんがここにこの曲を持ってきたことで、作品の中で金子さんと対話できたような気がしましたし、いいコンビプレイができました。

――第7、8話ではキャロルが復活し、『スフォルツァンドの残響』を歌唱しました。

上松 個人的に、キャロルの歌詞を書くのが一番好きなんです。彼女の絶対的王様感と中二病感が素敵ですし、何より音楽を数字として扱う感覚に惹かれてしまって。僕自身も音楽を二つの面で捉えていて、一つはお互いに言葉がわからなくても繋がれるという感覚的な一面。もう一つは、音は数字で表すことができるという数学的な一面ですね。実際、音楽は数字だけで書くことができますし、コンピュータに入れて波形で表すことができます。そんな僕とキャロルの考え方が重なったことで生まれたのが、『殲琴・ダウルダブラ』の「0と1に鎮座した我が音楽」という歌詞でした。今回の『スフォルツァンドの残響』でも金子さんからそういうニュアンスの歌詞を入れてほしいとリクエストされ、そこから生まれたのが「数式凌駕した交響楽」という部分です。キャロルの考えと僕の考え、そして僕の中二病的なところがうまくハマりました。

――『スフォルツァンドの残響』というタイトルにはどのような想いを込めたのでしょうか。

上松 キャロルを音楽記号で表すと何だろうと考えたときに、スフォルツァンドという言葉が浮かんだんです。クレッシェンドやフォルテというのは小節単位で強く表現するという記号ですが、スフォルツァンドは一音だけに掛かる記号です。一つの音に強烈なアクセントをつけるというのは、まさにキャロルが放つ強烈な一撃に近いですし、その攻撃が想い出を焼却していくという意味で残響という言葉を入れました。正直、額に入れて飾りたいくらいの、いいタイトルになったなと思います(笑)。

――そして、第11話では第2期第1話で翼とマリアがデュエットした『不死鳥のフランメ』が再び登場しました。

上松 これは金子さんのアイデアがすごかったですね。『不死鳥のフランメ』って、作曲当時は『逆光のフリューゲル』よりも絶対に力強い曲にするぞという意気込みがありましたし、映像的にもライバルである翼とマリアの鍔迫り合いみたいなところがあったので、確かにデュエット曲とはいえバトルにも対応できる強い曲なんです。でも、この曲をここに持ってくるのかと、ライバルだった二人の曲が共闘の曲になるんだと、驚きました。やっぱり金子さんはすごいですね。同じ音楽でも画のつき方と歌い方でまったく印象が変わるんだと、皆さんにも音楽の可能性を感じていただけたのではないでしょうか。

――そして最終話の前半では装者にキャロルが加わり、7人が『PERFECT SYMPHONY』を熱唱しました。こちらは作詞のみなんですね。

上松 盟友の藤田淳平が作編曲しています。彼は『シンフォギア』シリーズのEDテーマの作編曲を担当してきて、この作品に計り知れないほどの貢献をしてくれました。一番大事な戦闘シーンですし、僕自身が挑戦するという選択肢もあったのですが、シリーズで一番盛り上がる戦闘シーンに彼がどんな音楽を作ってくるのか純粋に聴いてみたくなったんです。それで彼に任せることにしたのですが、結果、大成功でしたね。自分が仮にこのシーンの曲を作っても、この曲には絶対に勝てなかったと思います。

――と言いますと?

上松 僕にはこのBメロの発想がないんです。僕だったらBメロは殴るための曲としてバトルのことを最優先に考えると思うのですが、淳平は歌の本質である「7つの惑星、7つの音階」という宇宙的な規模を表現する場所として捉えていて、デモを聴いたときは「藤田淳平はすごいな!」と心の底から思い知らされました。金子さんの想いを僕以上に理解しているのかもしれません。作曲家として藤田淳平に超えられちゃったなという気持ちもありましたが、でも嬉しかったですね。

――歌詞はどのようなことを考えながら書かれたのでしょうか?

上松 歌詞はメロディに負けないように、スケールの大きさを表現しようと考えていました。今読み返すと、『シンフォギア』で使ってきた言葉を全部入れたいという気持ちも強かったんだなと思います。過去の歌詞との被りも気にせず、とにかくメロディにハマる『シンフォギア』らしいフレーズを取り入れて、『シンフォギア』らしさを追求しているんです。そういう意味で、『シンフォギア』らしいスカッとする曲になったなと思います。

――最終話ではさらに、装者に未来が加わった『Xtreme Vibes』もありました。

上松 これは僕の日記のような曲ですね。恥ずかしい(笑)。なんの比喩もないストレートな言葉で、スタッフやキャスト、適合者の皆さんと出会えた喜びを表現しています(笑)。キャラクターも、物語も、関わってくださった方もみんな、人。その人たちとの出会いにありがとう、さようならという気持ちを込めつつ、『シンフォギア』を大きなスケールで描きたいという思いで作詞、作曲しました。

――2番はなくTV本編で流れたものがすべてなんですよね。

上松 そうなんです。ちょっと短めですね。でも、自分としてはフルコーラスを作らなくてよかったなと。もっと長かったら、さよならの気持ちが薄れてしまう気がするし、これぐらいあっさりしていたほうが綺麗な想い出になるのかなと思います。

――そして、最後はエンディングで流れた『未来(あした)へのフリューゲル』です。こちらも装者6人と未来の歌唱ですね。

上松 この曲は大変でしたね。金子さんと現場の制作スタッフさんから、『逆光のフリューゲル』の歌詞を変えてほしいとリクエストをいただき、最高の評価をいただいていた歌詞を自ら変えるという、かなり過酷な試練があって(笑)。相当、時間がかかりました。歌詞のために作ったメロディでもあったので、そうじゃない歌詞を入れるのはやっぱり無理があるんです。しかも、「神様も知らないヒカリで歴史を創ろう」だけは残してくれと。ものすごく悩みましたが、もとの歌詞に負けないような心を動かす歌詞にしたいという思いで作詞に挑みました。

――歌詞全体を読ませていただくと、「その先」を期待してしまいますが……。

上松 金子さんの想いを汲み取ってしっかり締めくくるようにはしたんですが、ただ、2番で「その先」を匂わせてしまったのは僕のズルいところですね(笑)。本編はしっかり完結しますし、エンドロールで流れる曲の2番だったら自分の希望を書いてもいいかなと思ったんです。誰かにバトンを渡して背中を押す側になることから逃げない。それが、自分自身が前へ進んで行くことにも繋がっていく。そういう歌詞にしたいと考えていました。

――ありがとうございました。改めて、『シンフォギア』のTVシリーズ完結を受けて、今の気持ちを聞かせていただけますでしょうか。

上松 やっぱり実際に終わりを迎えるのは寂しいですね。でも、終わらせるという覚悟がなければ、これだけの曲は書けなかったと思います。覚悟があったからこそモチベーションを高められましたし、Elements Gardenのみんなも気合いを入れてくれたので、寂しいけれどいい仕事ができたという達成感でいっぱいです。

――では、ここまで応援してくれた適合者の皆さんにメッセージをお願いします。

上松 いつしか「ついて来れるやつだけついて来い!」という傲慢なキャッチフレーズが広まりましたが(笑)、皆さんがついて来てくださったからこそ、『シンフォギア』シリーズはここまで大きな作品となりました。本当にありがとうございます。これも傲慢な意見になるかもしれませんが、『シンフォギア』のファンってアニメ業界を代表するファンだと思うんです。アニメという文化、アニソンという文化をこよなく愛してくれる人たちがこの作品に集まってくれているような気がして、ありがとうという気持ちと同時にみんなを誇りたい気持ちが溢れてきます。みんなと同じ時代に生まれ、大好きな作品を共有できて本当に嬉しいです。改めて、ありがとうございました!

――最後に、原作として7年以上にわたってタッグを組まれてきた金子さんへのメッセージもお願いします。

上松 金子さんとはかれこれ10年前後の付き合いになります。人の働く時間って40年ぐらいだと思いますが、その内の10年を金子さんは僕のために削り、僕も金子さんのために削ってきました。お互いのために10年という時間を削り合える間柄ってなかなかないと思うんです。その相手に選んでくれて嬉しいし、自分も金子さんを選べて誇りに思います。この二人で、ファンの心に残るものを作れたことが何よりもよかったなと、それを改めて伝えたいですね。あと、これだけ長い時間を一緒にすごすと、だいたい情が入ってしまうものですが、人間性などを抜きにした純粋に「作るものが面白いかどうか」で繋がれたのもよかったなと思います。お互いにつまらなかったらつまらないと言い合える関係だったからこそ、ここまで来られたのかなと。でも、自分が知る限りでこんなにいい物語を書く人はいないと断言できます。本当にありがとうございました。

◆コラム◆

『シンフォギア』シリーズを一言で表すと?

音楽を響かせること、それはつまり手を繋ぐことであって、最初から最後までそういう物語でした。そのテーマは初志貫徹できたかなと思います。